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時代や地域に寄り添った口腔ケア

岩手県地域医療研究会「歯科研修会」 (令和4年7月9日)

  • 保健・施設

県内の国保関係者など約50人が出席した岩手県地域医療研究会「歯科研修会」

岩手県地域医療研究会(会長・磯﨑一太洋野町国保種市病院長)は7月9日、国保会館においてWebと参集の併用形式で歯科研修会を開催した。県内の国保歯科診療施設などから約50人が出席した研修会では、「オーラルフレイル予防」をテーマとした講演や3名の歯科医師による活動報告が行われた。

 Webを併用して3年ぶりに歯科研修会を開催

あいさつする岩手県地域医療研究会 高橋 通訓 歯科部会長

研修会の冒頭、岩手県地域医療研究会の高橋通訓歯科部会長(国保金ケ崎歯科診療所歯科長)は「本日の歯科研修会は、新型コロナウイルス感染症の影響により3年ぶりにWeb会議システムを併用して開催となった。研修会や活動報告の内容をかみ砕いて地域に合ったものとして取り入れていただきたいと考えている。これまで国保診療施設が目指してきた保健・医療・福祉の一体的提供は、昨今叫ばれているまさに地域包括ケアそのものだと思っている。本日の歯科研修会を契機に、さらに行政、あるいは医科の先生方と連携し、国保診療施設としての役割を果たしていきたい」とあいさつした。

地域に根付き世代を超えた健康づくり

群馬県利根保健生活協同組合利根歯科診療所の中澤桂一郎所長は「地域住民とともにオーラルフレイル予防~地域まるごと健康づくり」と題し講演を行った。(以下、講演要旨)

講演する利根保健生活協同組合利根歯科診療所 中澤 桂一郎 所長

今年で開設40年を迎える利根歯科診療所は、歯科医師8名とスタッフを含め、計44名で活動しており、予約患者は約4000名を超えている。
2020年3月に日本老年医学会は、コロナ禍において先の見えない自粛生活が続いても、フレイルの進行を予防する必要性を発信した。外出の自粛が長期化する中での「孤立」や「生活不活発」で、会話量や運動量が減少し、フレイル状態が悪化している。このような社会的つながりの欠如が、心や身体の衰えを進行させる問題となっている。
75歳を過ぎると医科の受療率が急増する一方で、歯科は診療に来られなくなる患者が増える。入れ歯の需要は多いものの、義歯の作製から口腔ケアを始めるといったケースは少ないと感じている。
肺炎で入院すると絶対安静と禁食により、入れ歯は外され、口元はたるみ、乾燥することで舌も動かなくなり喋ることもできなくなる。実際の事例で、唾液の分泌を促すために、口腔リハビリやケアをし、義歯を入れた結果、再生した。

「ロングピロピロ」を実践する 中澤 桂一郎 講師

私たちは医療生協の中で、オーラルフレイル予防のための7つの提案をしている。7つの提案のうち1つでも地域住民のかたに実践していただければいいなという想いである。1つ目は今井一彰先生が考案した「あいうべ体操」だ。口呼吸から鼻呼吸にすることで、口の健康が守られる。医療生協では2014年から、小学校での講演や、医療福祉生協連によるポスターの全国配布にて活動を広げている。2つ目は「ピロピロ」、いわゆる「吹き戻し」である。島根の出雲医療生協ではロングピロピロ班会が結成され、現在は飛沫が飛ばないように対策を取りながら、地域住民が集まる場となっている。認知症の患者にも、懐かしい物として実践されるケースもある。高齢者だけでなく、子どもに対しても、正しい姿勢や呼吸法を教えながら、楽しくオーラルフレイル予防をすることに繋がるだろう。昨今、こんにゃくゼリーやパンを詰まらせて窒息死した事例は、食品が悪いとされ、ゼリーはクラッシュ化し、パンは細かくちぎって食べるように指導されているが、これは子どもの口の機能の低下が問題と考えている。子どもの時からいろんな形で口の中を鍛えるオーラルフレイル予防が必要だ。3つ目に「嚥下おでこ体操」、4つ目はオーラルとオリンピックを合わせた造語の「オランピックでレクレーション」である。5つ目は三好正堂先生が考案された「起立着席運動」である。人間の下半身に集まっている4分の3の筋肉をしっかりと鍛えることで、喉だけではなく、全身から摂食嚥下の障害の取り組みだ。6つ目に大阪市立大学の横山准教授が開発した「市大ストレッチ」。そして最後に、諏訪中央病院の病院長である鎌田實先生の「鎌田式のスクワット」である。骨粗しょう症予防にかかとから落とすことで刺激になる。鎌田先生は人生100年時代を生き抜くために、お金をためる貯金も大切だけれども筋肉を貯めよう、ということで「貯金よりも貯筋」というような表現で訴えている。
摂食嚥下の取り組みは、長続きがしなければ意味がないため、医療福祉生協連では、オーラルフレイル予防を様々な形で提供している。歯科が口の健康づくりの拠点となり、健康づくりの発信を進めることで、幅広い世代と繋がり、地域に根差すことができると考えている。地域丸ごと健康づくりを楽しみながらオーラルフレイル予防することが目標だ。

口腔ケアの必要性について

質疑応答の進行を務める岩手県地域医療研究会 高橋 通訓 歯科部会長

講演終了後、高橋会長の進行のもと、会場とWebの参加者を交えて質疑応答が行われた。

   ――(内記)講演内で、70歳を過ぎると歯科の受療率が急激に減少することについて触れたが、内容について再度伺いたい。

質問する町立西和賀さわうち病院 内記 恵 先生

中澤 学童期は歯科健診で、学校からの指導等が入るため、受療者は多い。社会人になると、忙しさから受療率が減少し、定年が近付くと、それまでに我慢したことで悪化した状態で受療する人が増加する。しかし60から70代でピークを迎え、75歳以降は、自力で病院に通うことが難しくなることで受療率が再び減少する。医科であれば、月に1回薬をもらいにいくだけなので受療するが、歯科で入れ歯を作製すると5~6回通院が必要となるため、入れ歯の作製を我慢し、受療を控える方が多い。本来であれば、年齢によって受療率は増加するべきだと考えているが、残念ながら減少しているのが現状である。

   ――(磯﨑)中澤先生の発表から、外来での診察時、嚥下が弱くなった患者に「あいうべ体操」と「ピロピロ」を勧めたいと考えている。中澤先生としてはどちらを勧めればよいと考えるか。

中澤 手軽に行えるため、子どもや摂食嚥下障害のある高齢者も含めた全世代に「あいうべ体操」を勧めている。忘れてしまう患者に対しては、食事前に行うように話をする。「あいうべ体操」を行うことで、唾液が出て、口腔周囲筋や、広頚筋から僧帽筋が動くため、効果があると考えている。「ピロピロ」は購入費用、筋力レベルの測定を要するため、まずは「あいうべ体操」から勧め、可能な方に「ピロピロ」を勧めている。

質問する岩手県地域医療研究会 磯﨑 一太 会長

磯﨑「ピロピロ」の使用期間はどのくらいになるか。

中澤 消耗品となるため、2~3週間程度である。

磯﨑 「あいうべ体操」の回数を教えてほしい。

中澤 基本的に10回繰り返すことを勧めている。

地域に根付いた各施設での取り組み

発表する宮古市国保川井歯科診療所 松生 誠 所長

宮古市国保川井歯科診療所の松生誠所長は「幼児歯科健診における歯種別的分析例の紹介」と題し発表した。宮古市では、幼児歯科健診を1歳、1歳半、2歳、2歳半、3歳と半年ごとに行っている。松生所長は平成27年から平成30年に生まれた対象者のうち、5回の健診全て受診した中で、「う歯」があった子どものデータを抽出した。
歯科健診データからは「う蝕」や「う歯」の発生が増える年齢や、「う歯」の本数に対する歯種の割合、「う歯」になる傾向が強い歯種についてグラフを用いて分析した。分析結果から、2歳から2歳半にかけて下顎の「う蝕」や「う歯」が急激に増加することや、1歳半から3歳に至るまで虫歯が増えない事例があることを発表した。

発表する国保田野畑村歯科診療所 近藤 貴樹 所長

続いて、国保田野畑村歯科診療所の近藤貴樹所長が、「国保田野畑村歯科診療所における活動報告」と題し発表した。田野畑村では平成5年から年中児(4歳) から中学3年生(15歳)の希望者を対象にフッ化物洗口を実施しており、平成2年では6.1本あった虫歯が、平成12年には0.45本と1本未満となり現在まで続いている。
また、歯科保健活動の取り組みとして、乳児の健診と指導の機会を増やし、成人世代への夜間診療の開始や、高齢者に訪問診療を行うといった全世代に向けた活動内容を報告したうえで、「歯科保健活動の必要性を説明し続け、利用者や時代の要請に応じた対応が求められる」と訴えた。

発表する奥州市国保まごころ病院 柳谷 隆仁 歯科医長

次に、奥州市国保まごころ病院の柳谷隆仁歯科医長は「まごころ病院における過去5年間の訪問診療実績報告と摂食嚥下障害患者の1例報告」と題し発表した。同病院では高齢者施設を中心に、歯科外来受診が困難な患者の訪問診療を行っている。
訪問診療については、2019年度から訪問診療の診療枠を増やしたこともあり、受診数も増え、患者のニーズを満たしていると報告した。口腔の機能低下による摂食嚥下障害を患う患者の機能回復に主眼を置いた治療と改善事例を発表したほか、進行性に口腔機能の低下を生じる患者では、継続した客観的評価を行い、状況に応じた対応の必要性があると訴えた。

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