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連携から始まるポリファーマシー対策

岩手県地域医療研究会「春季集会」  (令和4年6月25日)

  • 保健・施設

Webと参集を併用したハイブリッド形式で春季集会を開催し、県内の国保関係者など約55人が出席した

岩手県地域医療研究会(会長・磯﨑一太洋野町国保種市病院長)は6月25日、国保会館においてWebと参集の併用形式で春季集会を開催した。県内の国保関係者など約55人が出席した春季集会は「ポリファーマシー-高齢者医療の問題点-」をテーマに行われ、愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座の宮田靖志教授が「患者中心のポリファーマシー対策」と題し講演した。また、パネルディスカッションでは各団体の取り組み発表が行われ、参集者とWeb参加者を交えて高齢者医療におけるポリファーマシーの課題など活発に意見交換を行った。

地域医療研究会の活動を再開していく

あいさつする岩手県地域医療研究会  磯﨑 一太 会長

冒頭、あいさつした磯﨑一太会長は「本研究会は、令和2年度、3年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止やワクチン接種業務への対応により、本研究会の主な事業を中止せざるを得なかったが、令和4年度は、感染症対策を取りつつ、Web会議システムを活用しながら徐々に活動を再開していきたいと考えている。また、令和6年度には、全国国保地域医療学会を本県で開催することが正式に決定された。全国学会の成功に向け皆様方の御協力をお願いしたい」と呼びかけたほか、「今回は『ポリファーマシー』をテーマに、講演とパネルディスカッションにより、ポリファーマシーの在り方について議論を深めて参りたい」と述べた。

患者を中心にした意思決定の共有がポリファーマシー対策への鍵

愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座の宮田靖志教授は「患者中心のポリファーマシー対策」と題し講演を行った。(以下、講演要旨)

講演する愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座 宮田 靖志 教授

ポリファーマシー対策とは、単に減薬することではなく、処方の適正化のことをいう。患者が薬を処方されたことで最善の利益を得ることが目標である。医療者は患者がQOLを得られるように支援する立場であり、患者を中心にマネジメントしていくことが主旨となる。
英国の研究では薬物有害事象による予定外の入院が毎年860万件ほど発生しているといわれ、日本でも多くの患者が薬物有害事象で入院している。薬物による有害事象が起きる場合、65歳以上の患者のうち半数は医療者が注意深く対応することで予防可能ではないかといわれている。
患者中心に医療を進めていくうえで最も重要なことは、医療者と患者が話し合って何を目的に治療するかを考えることである。患者の中には、身体が弱っていても、身体を動かすほうが大事だと考える人もいる。治療目的を患者と話して、健康に過ごすために必要な薬を考える。そこで、必要のない薬が処方されていないか、その薬が本当に目的を達成しているのか、効果は出ているのか、患者はきちんと薬を飲んでいるのか、薬が効いていなければ薬をさらに追加しないといけないのではないか、費用対効果はいいのか、といったことを考えていくこととなるが、患者の意向をくみ取れず医師中心で医療が行われてしまうと、患者とのコミュニケーションにギャップが生まれることがある。有害事象が起きていないかを考えながら、患者がどうしたいかをくみ取り患者との間で処方への合意がなされ、その中で、患者にとって何が重要なのかを考えていくことが大切である。
ポリファーマシーに明確な定義はないが、臨床的に必要とされているかどうかである。疾患が複数あり、エビデンスに基づいて処方されている場合は適切なポリファーマシーといえるが、エビデンスに基づいていない薬剤の処方や、患者が処方された薬をきちんと飲めていない場合、薬の副作用を治すためにまた別の薬が処方されている場合は不適切なポリファーマシーといえる。薬の副作用による症状を、他の薬によって治療することを処方カスケードと呼ぶ。
では、どうしてポリファーマシーになるのか。今はエビデンスが豊富になってきているが、処方医が患者のQOLを考えず、疾患の治療だけを念頭においた診療をしてしまうことで、結果としてすべての症状に薬を処方してしまう場合もある。患者が薬剤の治療効果に期待し、服用することに安心感を覚えるケースや、飲めない量の薬を処方されたとしても「要らない」といえない患者側の要因もある。ほかにも、医師同士・医師と薬剤師・医師と患者・医師と介護者の関係性、医師においては薬理の授業はあるが処方学の授業はないといった要因も考えられる。患者側の要因として、複数疾患が挙げられるが、加齢による薬剤の増加もいわれている。合併症の場合、最初の病気を中心に治療していけばいいのだが、多疾患併用として捉えてしまうと薬が増えてしまうため、処方医が1人増えると薬物有害事象が30%増加するといわれ、処方カスケードがポリファーマシーに起因している。このように、薬の相互作用は予想できず、ポリファーマシー自体が疾患であるともいわれている。ガイドラインと医者の経験を織り交ぜ治療を進めていくことが重要であり、医者はそれを考えていく責任がある。
多くの薬は一次予防・二次予防のために処方されているが、短期的に痛みを和らげることが目的であれば、症状の改善によって処方は終了し、必要な薬が整理される。終末期ケアや緩和ケアが目的の場合も、エビデンスに基づいた目線から処方を考えることが可能となり、必要な薬は自然に区分けされる。また、患者に薬が必要かどうか説明する際はNNT(同じような状態の何人にその薬を処方すると1人が薬の恩恵に預かるか)を示すことで実は必要のない薬だと判明することもあり、コミュニケーションも取りやすく薬の整理において重要である。医者が想定しているよりも残薬が多く、治療効果が上がっていないケースもある。多く見積もって2人に1人は薬を飲んでいないといわれており、確認は必要だ。安全性としては、オーバードーズになっていないか、処方カスケードが起きていないかである。海外では、ケア施設入所者の3分の2以上に処方エラーが発生しているデータもあり、日本でも注意が必要だ。費用対効果では、新薬は高価なため、効果が同等であれば新薬を使う必要はない。最後は、患者が薬の処方に対して合意しているかということだ。海外のデータでは7人に1人は医者が意図したとおりに薬を服用しておらず、また、そのことに問題を感じていないという。患者も多く処方された薬を故意的に飲まないことで、自分でポリファーマシー対策をしている。そして、ケア移行期の薬の再確認が重要になっている。短期間で入退院を繰り返すことで、薬の情報の連携がうまくいかないため、薬の不一致といった処方のエラーが発生している。
患者中心のケアを進めていく上では、エビデンスだけの医療は難しい。患者個々の価値観を考慮し、最善のエビデンスを活用することが必要だ。薬はあくまでその手助けであることを忘れてはいけない。医療者と患者の情報をうまく組み合わせ、お互いが合意し、意思共有することが、ポリファーマシーにおいても重要なプロセスである。その際は、治療における患者の価値観を話の中で引き出す過程が、信頼関係の形成や、価値観の発見に繋がるため、そのプロセスに価値があり、意思決定のサポートといえる。患者と友好な関係を築き、価値観を拾い上げていくことがポリファーマシーの対策に繋がる。

それぞれの立場のポリファーマシー対策と課題

パネルディスカッション
テーマ 「ポリファーマシー-高齢者医療の問題点-」
司会者 一関市国民健康保険藤沢病院
    内科長 高木 史江 氏
助言者 愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座
    教授 宮田 靖志 氏

発表者 岩手県薬剤師会
    常務理事 中田 義仁 氏
演題 「ポリファーマシー ~岩手県薬剤師会の取り組み~」

(以下、発表要旨)

発表する岩手県薬剤師会 中田 義仁 常務理事

岩手県で実施した平成30年度の厚生労働省委託事業について、盛岡地区と釜石地区がモデル地区として参加した。そこで実施したアンケート結果からは、ポリファーマシー問題について医師・薬剤師ともに大多数の先生方が問題と考えていることや、盛岡・釜石ともに7種類以上の処方だと薬が「多い」と感じていることがわかった。また、薬の数が増える原因としては、加齢とともに増える病気、受診する医療機関の数、薬の副作用対策のための処方が原因と考えていることが多い結果となった。ほかにも、薬の数が多いので薬を減らしてほしいという患者が多いこともわかった。
盛岡地区においては「ポリファーマシーを考える~なにがおきているのか、なにが問題なのか~」というテーマで、医師2名と、病院薬剤師1名によるシンポジウムが行われた。
ほかにも、厚生労働省予算事業では、薬局から主治医に情報提供することを目的としたトレーシングレポートを活用した薬薬連携を実施した。患者は医師の前よりも薬局のほうが、健康や薬のこと以外の内容についても話すケースが多く、生活的な情報の中に、薬物治療に関して重要なキーワードは含まれているため、薬局薬剤師から病院薬剤師を経由して主治医に提供するという事業を展開した。
釜石地区では、ポリファーマシーで全国的に活躍されている医師、薬剤師にご講演いただき、そこで行われた三師会の学術講演会では、薬剤師・医師・歯科医師・その他行政を含めた専門職種の方も多数参加した。釜石地区では、退院予定の患者の薬に関する情報を、病院薬剤師から薬局薬剤師に提供し共有する「病院薬剤師と薬局薬剤師のバトンタッチ連携」と題した事業を展開した。事前に情報提供が行われ、円滑に患者と関わることで、薬物治療の質が向上したという評価ができた。パネルディスカッションでは、薬剤師・ケアマネ・看護師・医師・行政を含めた専門職種の方にも多数参加していただき、薬薬連携の必要性を薬剤師だけではなく、他の職種の方にも知ってもらういい機会であった。
花巻地区では、釜石地区と盛岡地区で行われた事業をミックスした形で事業を展開した。花巻薬剤師会においては、入院時に薬局薬剤師から病院薬剤師に、退院時には病院薬剤師から薬局薬剤師にそれぞれ情報を提供して、入退院時には薬の情報をシームレスに行うという事業である。
そして年度末には、岩手県薬剤師会としてポリファーマシーをテーマとした公開シンポジウムを開催した。医師・薬剤師単独というよりも多くの職種の方々と連携することでポリファーマシーが解決する道筋にもっていけるという結果を得た。
岩手県においても、各地域の薬剤師会での連携を図ることを目的に、岩手県薬剤師会と岩手県病院薬剤師会で合同の地域連携ワークグループを令和3年度に設置した。成果物として、ポリファーマシーという項目が入った岩手県版のトレーシングレポートを作成したことで、薬局薬剤師が主治医に患者の情報を提供しやすくなった。また、後期高齢者医療広域連合の事業として、後期高齢の患者の中で複数の医療機関で多量の薬を飲んでいる人をピックアップし、薬剤師が勧奨することで、かかりつけ薬剤師の普及、医療費の適正化を図った。令和3年度において、1900名の方に勧奨を行い1人当たり1.59剤の薬剤数が減り、薬剤費においても963円減少したという結果を得た。かかりつけ薬剤師というのは患者の服薬情報を一元化し、継続的に把握することで、薬物治療の適正化に活かすものだが、かかりつけ薬剤師は普及していないというのが現状だ。かかりつけ薬剤師の普及が、ポリファーマシーを含めた薬物治療の適正化の前進に繋がるだろう。
医師・薬剤師はポリファーマシーを重要な問題と考えているが、解決策は個々の対応となっていて問題解決に至っていないということが現状だ。病院薬剤師と薬局薬剤師の連携をポリファーマシー解決の糸口として、患者を含めた問題解決を考えていく必要がある。

発表者 岩手医科大学 医学部 総合診療医学講座
    助教 山田 哲也 氏
演題 「地域基幹病院と大学総合診療部の診療経験から見たポリファーマシー ~ちょっと早めにポリファーマシーの概念を学んだ一医師のナラティブ~」

(以下、発表要旨)

発表する岩手医科大学医学部総合診療医学講座 山田 哲也 助教

前勤務地では、薬物有害事象の入院患者が多く、入院時に根拠のない薬を服用していた場合は、一度服用を中止して精神状態が安定して問題がなければなるべくシンプルにして退院させるということをしていた。しかし、減薬後、処方内容を戻され、再度救急で運ばれることもあり疑問を感じていたが、自分も外来で患者を診療するようになると減薬したことで症状が悪化することや、患者の要望を断れず処方してしまうこともあり、気づいたら自分がポリファーマシーの当事者になっていた。
今回は、3つのナラティブ経験を紹介する。めまいや嘔吐で入退院を繰り返す患者がいた。最初は不安発作が起きていると思い、抗不安薬を頓服で処方した。すると定期で処方を希望されるようになり、服用による転倒の危険性と服薬を控えるように伝えると「わかってるよ、でも1日に1回だけ、1日の黄昏、人生の黄昏にあれがほしい」と言いくるめられてしまう。別の病院に入院後、外来で通院した際に、「黄昏の薬はダメだってもらえなかったの。先生、出してくれる?」といわれ、不適切かもしれないが、薬にもストーリーがあると感じた。2つ目に、自分が潰瘍性大腸炎で入院した時、主治医への遠慮から、聞きたいことや不安なことを聞けなかったことから、チームでの連携や情報共有の重要性を感じた。3つ目は、自分が内服している薬にジェネリックが出た際に、身体を保ってきた薬を変えることは、理屈ではなく勇気がいることだと気づいた。成分が同じといわれても、患者には不安があることに気づき、薬剤の中止や変更は、調子が悪くなった際は元に戻していいことを伝える必要があると感じた。
外来経験や自分のナラティブを振り返って、病院という垣根を越えて、情報連携や、密なコミュニケーションを取ることが大切だと考えている。患者側と医療側において、多併存疾患、多愁訴、慢性疼痛、身体疾患がきちんと診断されていないというのもポリファーマシーの原因ではないか。精神疾患症状の場合も複数の診療科で薬をもらってしまうことや、薬やサプリメントで健康になれるという価値観、生活習慣や環境の改善に関心が低い、消費主義的な価値観や受療行動がポリドクターやドクターショッピングに繋がってしまう。患者自身にポリファーマシーは害であるという知識が少ない。認知機能低下など、あえて事実を申告しないといったアドヒアランスの低下もある。医療者側では、ポリファーマシーや不適切な処方に無関心。薬の知識不足。多併存疾患、年齢や背景を考慮した調整のスキルや知識がエビデンスを含めて不足している。患者の訴えと処方の希望を「言葉どおり」受け入れてその理由を聞かない。医師-患者間のパターナリズム。医師-薬剤師間のヒエラルキーあるいは薬剤師の医師への忖度も考えられる。そしてポリファーマシーが起きている際の協議や連携するシステムがまだないこと。
医者はその立場や役割から指示を与える側になるので「自分は正しい」「自分の指示に従って当然」となってしまう可能性がある。医者1人の認知や判断にも限界があるため、チーム内で気づき、ありのままフィードバックしてもらえることが重要であり、そのためにも普段の関係作りや、コミュニケーションが大事である。
最後に2つ提案する。ひとつは、ポリファーマシーにチームで介入すること。患者もチームの一員として「ちゃんと薬が飲めていますか」ではなく「余っているお薬や飲みにくい薬はありませんか、そういうのがあってもおかしくないですよ」というニュアンスで聞くことや、薬剤師と顔の見える環境づくり、疑義照会に対する感謝、お薬手帳に手書きで処方の追加や調整の意図を書くなどコミュニケーションをとることである。ただ減らすのではなく、スクリーニングして多職種カンファレンスで適正使用を検討し、チームで、患者の処方を調整する。その情報を転移先や退院先に連携する。2つ目は、地域で過剰な薬を減らそうという風土を作っていくこと。医者が薬を減らすことが大切といっても心から納得してもらうことは難しい。チラシ・ポスター・広報誌に載せるとか、健康教室といった一緒に学ぶ場を設けることも手である。
薬が多いことが悪いのではなく、不適切、有害、過剰、過小であることが問題である。ポリファーマシーは医者、患者双方の「良かれ」の結果起きる。入院はポリファーマシー介入のチャンスであり、チームでポリファーマシーに介入する。また、地域全体で「過剰な薬は減らそう」という運動を心がけていただく。そして、患者の最善のために謙虚にいることを大切にしていきたい。

発表者 一関市国民健康保険藤沢病院
    主任薬剤師 三浦 美輝子 氏
演題 「ポリファーマシーへの取り組み ~認知症・せん妄サポートチームの活動~」

(以下、発表要旨)

発表する一関市国保藤沢病院 三浦 美輝子 主任薬剤師

ポリファーマシーにおいては処方の負の連鎖を断ち切り、処方を適正化するために薬剤師による積極的な減薬提案が推奨されている。減薬の手順は、初めに現在服用中のすべての薬剤を明らかにし、処方理由、相互作用、副作用の確認後、やめる薬の優先順位を決める。最初は中止しても副作用が起こる問題が低い薬や、病態を悪化させる可能性が低い薬を選択する。そして減薬のタイミングは担当医の変更や、入院といった患者に環境変化があるタイミングが望ましい。減薬後に起こる問題点は、症状の悪化で起きる離脱症状、薬を中止したという患者の心理的不安である。一方、改善点は、服薬回数の減少によるコンプライアンスの向上、介護者の負担軽減、医療費の軽減が挙げられる。
高齢者薬物療法の安全性を高める目的で作成された、日本老年医学会のガイドラインには、高齢者の処方適正化スクリーニングとして、特に慎重な投与を要する薬物のリストや、開始を考慮すべき薬物のリストが記載されている。また、薬剤師の役割について、薬の見直しや医師への提言、多剤併用に対しての薬剤師の介入が医療費及び薬物有害事象発生の軽減に有効かつ推奨度が強いということが示されている。
ポリファーマシーに関係して、現場で困っていることは、入院時の持参薬に実際は服用していない薬が含まれている。服用薬剤数が多く、看護師による服用方法の説明や管理が難しい。ポリファーマシーに関連してせん妄や転倒が発生する。人員不足のため、対象患者の抽出や、検討する時間を作れない。ポリファーマシーであるかを判断することや、医師が自分以外の医師の処方薬を調整することが難しい。患者の理解が得られない。などが挙げられる。当院では、高齢者や認知症の患者との関わりの中で、患者が置き去りになっていないか、自分たちにとって困った症状にばかり目が向き、困った患者と決めつけていないか、患者本人に必要なケアを関係するスタッフ皆が同じように気づき、考え、提供できることが大切だと考え、2018年4月に認知症・せん妄サポートチームを立ち上げた。チームメンバーは、医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・看護補助員である。活動目標を「認知症があっても、必要な入院治療が安心・安全に受けることができる。必要性をスタッフ全員が共通認識し、患者様にあった個別性のあるケアを実践できる」とし、週1回の定期ラウンド、チームカンファレンス、年5回の看護師対象の勉強会を行っている。病棟ラウンドの対象者は入院時、認知症の診断がある患者、認知症高齢者の日常生活自立度判定Ⅲ以上の患者とし、抑制患者の評価、ケア困難事例やせん妄患者の相談ケアの検討を行っている。患者から、現在の問題や、困っていることなどを聴取し、それぞれの職種の情報からカンファレンスする。認知症サポートチームにおける薬剤師としての関わりは、最初に当院及び他院からの処方内容・処方薬を把握し、用法・用量・相互作用について確認する。次に持参薬を確認し、自宅での服薬状態、既往歴や検査値、バイタルサイン・栄養状態を含めた全身状態を確認し、処方経緯、慎重に投与すべき薬剤の有無や、患者の状況や訴えから、処方解析・処方提案を行っている。
認知症・せん妄サポートチームを通して見えてきた問題点は、長年のDo処方や、処方カスケードが多いこと、加齢による身体認知機能低下に伴うコンプライアンスの低下、服薬回数の多様化によるアドヒアランスの低下、医師の前でいい患者でいたいという思いや、患者や患者家族の薬への依存、医療機関別のお薬手帳の多さである。
課題としてあげられるのは、ポリファーマシー後の経過観察と評価の検討や、医師には否定ではなく、提案であることの理解を得ること。そして、患者・介護者に不安を与えない説明の重要性である。また、薬剤総合評価調整加算の算定に繋げていくことも課題のひとつだ。
認知症・せん妄サポートチームの活動では、患者・介護者の抱える問題を他職種で共有することが、適切な見直しと介入に繋がり、ADL・QOLの改善を図ることが可能となる。ポリファーマシーを解決するためには、減薬を目的とせず、患者にとって服薬に伴う利益が得られるということが重要である。結果として、健康への影響を最小限に抑え、アドヒアランスの向上に繋げることが目標となるため、あくまでも患者にとって適正な処方内容の見直し、患者中心のケアという視点から活動を続けていきたい。

ポリファーマシー対策の継続した取り組みに期待

左)一関市国保藤沢病院 高木 史江 内科長
右)愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座 宮田 靖志 教授

各発表終了後、高木先生の進行で全体討議を行うとともに、宮田教授から助言いただいた。

   ――中田理事の発表に関して

宮田 薬薬連携時における医師の関わり方や、トレーシングレポートで病院薬剤師からかかりつけ薬剤師に情報提供した際に、医師はどのような反応で、反応が悪ければどのような課題があるのか

中田 岩手県内の地域において差はあるが、活動地区の釜石地区においては、医師の協力を得られている。コロナで活動はできないが、勉強会、三師会の講演会において懇親会で、医師の方が薬剤師の方に声をかけてくれる。薬剤師の方も情報提供はやりやすい環境を整えてもらっている。ポリファーマシーや薬薬連携の課題も、医師が応援してくれているので、難しい問題に取り組んでいける。

   ――山田助教の発表に関して

宮田 山田助教からは3つのナラティブについてお話いただいたが、医療はエビデンスではなく物語になっていて、患者の想いを聞いたうえで、処方するかしないかを判断する必要があることが分かった。患者もナラティブを聞いてもらうことで、医師との関係も深まる。先生に患者の今の状況を知ってもらえることが必要である。医療の基本は物語を大事にするため、時間はかかるが、ポリファーマシーにおいては大事な取り組みだと感じた。

   ――三浦薬剤師の発表に関して

宮田 多職種連携での取り組みをしている中でも、うまくいかない事例や、医師に話を半分しか聞いてもらえず、対策が進まないということで、改めてポリファーマシー対策が難しいということを実感した。その中で大事なことは、なぜその薬が出ているのか経緯を遡ることだと思うが、非常に大変な作業である。カルテがあっても処方理由が書いてないため、判明しないことはよくある。その上で活動を継続していることから、一致団結してやられていることが伝わる発表であった。

   ――全体を通して、宮田教授から一言いただきたい。

助言する愛知医科大学医学部地域総合診療医学寄附講座 宮田 靖志 教授

宮田 今回の発表内容をうけて、岩手県は、ポリファーマシー対策の先進地域ではないかと思った。中田理事の発表ではワークショップを活発にされていることが分かり、山田先生の発表では、ナラティブが大切ということも分かった。三浦先生の発表では現場のリアルな声を共有できて、今後の活動へのやる気が湧いた。今後役立てていきたい。

高木 ポリファーマシーに関して、患者中心の意思決定の共有、価値観に基づく医療、他職種連携、地域連携など、とても濃密な学びがあったと、参加者は実感しているのではないか。学んだあとに大切なことは、小さなことでもまず実践していくこと。チームは今日の参加者である。それぞれの診療の場で明日からといわず今日からポリファーマシー対策への一歩を進めていきたい。

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