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第64回全国学会へつなぐ研究発表27題 殊勲賞は髙橋伸光さん(奥州市総合水沢病院 診療放射線技師)

岩手県地域医療研究会「秋季集会」 (令和5年10月28日)

  • 保健・施設
今年度受賞された方々

岩手県地域医療研究会(会長・磯﨑一太洋野町国保種市病院長)は10月28日(土)、国保会館において参集とWeb併用のハイブリット形式で令和5年度「秋季集会」を開催した。集会には医師や歯科医師、看護師などの国保診療施設関係者のほか、保健活動に従事する市町村職員など約110人が参加。日頃研究を重ねた多職種による27題の発表が行われ、発表後には「殊勲賞」、「敢闘賞」、「技能賞」の三賞と「努力賞」(2題)、「特別賞」が授与された。また、岩手医科大学の学生からの発表は「選考委員会特別賞」として表彰された。今回は受賞者の発表を紹介する。

あいさつする岩手県地域医療研究会 磯﨑一太 会長

冒頭、磯﨑一太会長は「本研究会は国保診療施設および類似施設に勤務する医師および歯科医師の会員の学術研鑽、相互協力を図り、地域住民の医療の確保等に寄与することを目的に設立されており、秋の集会では、医師だけではなく、看護師などのさまざまな立場の方から発表をいただき、相互研究を重ねる場となっている。また、令和6年度には第64回全国国保地域医療学会が本県で開催されることから、各施設に多くの研究発表をお願いしたところ、多数の申込みがあり感謝申し上げる。本日は熱心な討論をお願いしたい」とあいさつした。

殊勲賞
「STAT画像報告の地域医療への貢献」
奥州市総合水沢病院 主任診療放射線技師 髙橋伸光

殊勲賞を受賞した奥州市総合水沢病院 主任診療放射線技師 髙橋伸光 さん

緊急で治療を要する画像所見を直ちに医師に報告する行為をSTAT画像報告と言う。STAT画像報告ガイドラインでは、報告対象は12所見とされているが、当院は32所見としている。今回、これまでの実績を評価するために、以下の3項目を算出した。

  • ①報告率(報告対象の32所見を報告したかを評価するため、全報告対象数に対する報告した件数で報告率を算出)
  • ②正確度(報告した所見が正しかったかを評価するため、正確度を算出した。報告所見が正確で十分だったものをA評価、一部不十分で迅速な治療に繋がらなかったものをB評価、誤りをC評価とした)
  • ③診療貢献度(報告対象を報告し、且つそれが正しかったかを評価した)。

STAT画像報告システムの構築と教育により、報告率、正確度、診療貢献度のいずれも上昇した。実際のところ、絞扼性腸閉塞などの所見を報告し、救命に繋がった複数の有効症例を経験している。診療放射線技師によるSTAT画像報告が迅速且つ効果的な治療に繋がっており、地域医療への貢献の一端が伺える。

敢闘賞
「外来における高齢糖尿病患者への指導 ~注射、何回打っていますか?~」
洋野町国保種市病院 看護師 久保田正子

敢闘賞を受賞した洋野町国保種市病院 看護師 久保田正子 さん

当院内科外来に通院中のインスリン注射を行っている患者は79名、うち75歳以上の後期高齢者は40名と高齢化率が高くなっている。長期にわたり自己管理を継続しコントロールが良好であった患者でも高齢となり様々な要因でコントロール不良に陥ることがあるため、チェック表を用いた面談・指導をはじめた。面談・指導内容は、

  • ①コントロール不良となっている高齢患者に、次回受診時手技確認を行うことを説明し、同意を得て、物品を持参してもらう。
  • ②受診当日、診察の待ち時間に個室にて、チェック表を使用し面談・手技確認を実施。
  • ③問題点や気づき等を医師へ情報提供する。
  • ④次回の指導内容を検討する。

面談・指導の実際では、ほとんどの方は、自己注射に関して「困ったことはない」「ちゃんとやっている」と答えていた。しかし、注射回数や単位数を正しく答えられない方や、打ち間違いや打ち忘れが考えられるなど家族の協力が必須と考えられるケースがあった。

高齢糖尿病患者への療養指導は、患者の状態や、家族の協力状況の把握を繰り返しながら指導を継続していく必要があり、全てを家族に頼るのではなく、患者個々にあった支援体制を提案していきたい。

技能賞
「地域・行政・民間医療機関・国保診療所が協働して創りあげる地域住民のための健康増進イベント ~コロナ後の疾病予防啓発活動を地域住民と考える~」
奥州市国保前沢診療所 事務長 高橋 純

技能賞を受賞した奥州市国保前沢診療所 事務長 高橋純 さん

平成28年度に鈴木所長が前沢診療所に着任してから行ってきた、予防医療活動について報告する。平成27年度の奥州市前沢の健診受診率は、特定健診40.6%、長寿健診36.1%と奥州市の平均にも届かない低いものであった。健康診断の啓発活動を診療所の重要なテーマと捉え、平成28年度から2つの活動を開始した。
1つ目は「出前健康講座」、2つ目が「前沢さわやか健康セミナー」である。医療スタッフによる、講演とコンサートを融合したイベントで、150名前後の地域住民を集め、平成29年から令和元年までに7回開催した。回を重ねるごとに参加者が増え、地域住民の健康への関心の高まりが伺われた。平成29年度における特定健診の受診率は市の平均を大きく上回ったが、新型コロナ感染が蔓延し、活動は2年間自粛していた。
「健康フェスタ2023」は、奥州市と医療局と合わせ7つの団体による共催事業として開催することができた。当日は250人が参加。健康チェックコーナーでは延べ770人の利用があり、イベントの趣旨が参加者に伝わったことを感じた。
新型コロナウイルス感染症の蔓延がきっかけとなり、市民の健康への意識がコロナ禍以前にも増して高まったと思われる。
公立の医療機関としての前沢診療所が、地域・行政・医療機関の三位一体の啓発活動においてリーダーシップを発揮することで、地域住民の高い健康意識が醸成され、健診受診率の向上に留まらず地域社会の発展に寄与していくものと考える。

努力賞
「当検査科における感染管理活動を振り返る -私たち、患者さんを、病院を、医師を、地域を検査します-」
町立西和賀さわうち病院 主任臨床検査技師 西田浩美

努力賞を受賞した町立西和賀さわうち病院 主任臨床検査技師 西田浩美 さん

平成29年に着任後、感染管理活動の4項目について振り返りを報告する。
活動の1つ目はアンチバイオグラムの作成。作成ガイドラインには分離株数が少ない場合は、2年以上のデータを用いて作成してもよいとあり、3年分の分離株を合わせた、アンチバイオグラムも作成した。3年分を合わせても30株以上になった菌は、MSSA、緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌の4種類だけであった。活動の2つ目は耐性菌の検出状況とベンチマーキング。MRSA検出率は令和3年から減少していき、令和4年の院内新規発生は0件、検出率は18.5%と、JANISの全国、岩手のデータと比較し、耐性率は低く、AMR対策アクションプランの目標値20%以下も達成することができた。活動の3つ目は血液培養の適正管理。令和元年から4年の血液培養について、血液培養検査ガイドに準じて2セット率、陽性率、汚染率を算定している。陽性率は、15%前後で推移し、適正範囲内にほぼ収まっており、汚染率は適正範囲以下と低率であった。活動の4つ目は呼吸器及び尿路疾患で検出された菌に対する評価。令和2年から4年の入院患者の検出菌に対して、使用した第一選択薬が感受性であったかと、疾患別の血液培養陽性率を評価した。呼吸器および尿路疾患の第一選択薬の感受性率は、令和2年のみ有意差があり、令和3年以降は差がなく、70~80%の感受性率であった。
当検査科で行っている感染管理活動は患者の検体検査を通じて、検出菌の評価で病院を検査し、第一選択薬の感受性評価で医師を検査し、耐性菌の動向評価で地域を検査している。
今後も検査技師として、患者・病院・地域の感染管理に少しでも貢献できるよう活動していく。

努力賞
「H市に住む高齢者の希望する最期の療養場所および緩和ケアに関する意識調査」
八幡平市立病院 主任看護師 佐々木里美

努力賞を受賞した八幡平市立病院 主任看護師 佐々木里美 さん

H市に住む高齢者の希望する最期の療養場所および緩和ケアの認識を明らかにすることで、住民の希望に沿った緩和ケアチームの活動内容および地域全体での課題を見いだすこととし、対象者はH市A病院に通院する65歳以上の患者とした。475名から回答を得ることができ、その中で、医師や看護師に相談できている人は少ないことがわかった。
希望する最期の療養場所として、半数が「できるだけ自宅、最期は病院」と回答しており、また仕事をしている人や趣味や生きがいがある人は、自宅での療養を望んでおり、有意差があった。
緩和ケアの認識については、「緩和ケア」の言葉すら聞いたこともない人が4割いたこと、当院の緩和ケアチームの存在をほとんどの人が知らない現状があり、緩和ケアのイメージすらできていないことがわかった。
今後、当院の緩和ケアチームの活動を周知し、医療者が信頼される相談相手となるよう患者の背景を知り関わることが、八幡平市の高齢者の希望を支える一助になると考える。
今後の展望は、当院の緩和ケアチームの住民への周知として、今回の研究結果を広報に掲載してもらうことなど、希望する場所で最期まで療養できるように、病院はもちろん施設での看取りや、在宅看取りができる体制づくりを構築していきたい。

特別賞
「肛門疾患はCommon Disease」
奥州市総合水沢病院 外科医長 村澤哲也

特別賞を受賞した奥州市総合水沢病院 村澤哲也 外科医長

肛門疾患はありふれた疾患である。お尻の3大疾患として、痔核は、いぼ痔。裂肛は、切れ痔。痔瘻は、あな痔などがある。
本日は、痔核・裂肛を専門医に紹介する前に、いつでもどこでもできる日常生活の改善について説明する。
排便時間の短縮は絶対で、本や雑誌をトイレに持ち込まない、スマートフォン等を操作しないなど、理想の排便時間は5分を推奨する。
排便時にいきむと排便時間が5分を超えてくるので、全部出し切ろうとせず、出る分だけ出し、排便時間を短くすることが大事である。
便秘や下痢を避けるためには、①食物繊維や水分をしっかり摂取②適度な運動③アルコールや刺激物は控えめに。当たり前と思うかもしれないが、これが大事である。
長時間の座位はNGで、特に「あぐら」は肛門への負担が大きい。座位ではたまに立ち上がったり軽い体操をする、立位では姿勢を変えたり軽い体操をする。
腰やお尻の血行改善として、シャワーのみではなく湯船にゆったりと浸かって体を温めて、血行改善を行う。腰やお尻の血行が良くなると、肛門のうっ血も改善する。ここで大切なのは「ゆったり」と湯船につかること。38度くらいのぬるま湯に20分ほど入ると体が温まり血行が改善する。
日常生活の改善で、患者の2~3割は手術をしなくて済んでいる。最近は内痔核への注射が主流となっている。周りで困っている人がいるときはこれらのことを教えてあげてほしい。

選考委員会特別賞
「コロナ禍は高齢者の主観的健康観にどのように影響したか? -矢巾町在住高齢者へのアンケート調査-」
岩手医科大学 医学部医学科3年生 北館拓也、江川貴美奈、近藤康平、髙嶋真里衣、山岸月魁

選考委員会特別賞を受賞した岩手医科大学 医学部医学科3年生のみなさん

主観的健康観とは、身体ならびに心理的、社会的な要因と関連する健康指標のことである。この主観的健康観について、コロナ禍では感染対策として種々の行動制限やソーシャルディスタンスが推奨されたことで、ライフスタイルが大きく変化した。これにより身体活動が低下し、特に高齢者では生活不活発による心身虚弱、社会的孤立による心理社会的問題の悪化から、主観的健康観がコロナ禍を通して悪化していることが懸念されている。そこで矢巾町在住の高齢者のコロナ禍を経た主観的健康観の変化および主観的健康観の悪化に関連した要因を明らかにし、ウィズコロナ、ポストコロナでの高齢者の主観的健康観の悪化予防のために地域社会が取り組むべきことを検討した。対象は矢巾町在住の要介護認定を受けていない65歳以上の住民500名にアンケートを郵送した。(最終的な本研究の解析対象者は288名)
主観的健康観が悪化した人は、本研究ではコロナ禍の約3年間で10.7%、コロナ禍前に実施された5年間の前向き研究によると約15%。矢巾町在住の高齢者では、コロナ禍3年間による主観的健康観への影響は大きくなかった。
コロナ禍で主観的健康観が悪化した高齢者の特徴は、孤独感あり、家計状況の悪化あり、体型の変化あり、の3点。孤独感ありへの対策としては、住民の孤独感を軽減する機会や対処法の提供が必要である。家計状況の悪化ありへの対策としては、国だけではなく地域の行政が住民の生活を援助する対策が必要である。体型の変化ありへの対策としては、食生活・運動習慣・ストレス対処に関する正しい情報を提供し、適切に対処してもらう必要がある。
以上のことより、高齢者の主観的健康観の悪化予防のためには、地域行政が住民の孤独感や家計状況の悪化、体型の変化を軽減・防止するための支援や情報提供を行うアプローチが必要だと考える。

「秋季集会」の様子

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